「また嘘をついている」「どうしてこんな話を作るんだろう」——双極性障害を持つ家族やパートナーを支えていると、こんな疑問が頭に浮かぶことがありますよね。双極性障害と虚言癖には深い関係があり、その嘘は意図的な悪意から来るものではないことが多いのです。
この記事では、双極性障害の各病相ごとに「どんな嘘が出やすいか」を整理しながら、なぜそのような言動が生じるのか、そして家族が疲弊しないために境界線をどう引けばいいかまで解説します。
- 双極性障害と虚言癖の関係は「意図的な嘘」ではなく病相による認知の歪みが原因
- 躁期・うつ期・安定期でそれぞれ嘘のパターンが異なる
- 気分安定薬による治療が進むと嘘も自然に減っていく
- 家族が境界線を設けることが関係維持と支援継続のカギになる
双極性障害と虚言癖の関係を理解する

双極性障害の嘘は意図的ではない
双極性障害と虚言癖の関係を理解するうえで最も重要なのは、「その嘘のほとんどは意図的な悪意から来ていない」という事実です。一般的に「嘘をつく」という行為には、相手を騙そうという明確な意図が伴います。しかし双極性障害の場合、病相(躁・うつ・混合状態)によって認知そのものが変容してしまうため、本人にとっては「嘘をついている」という感覚がないことが多いのです。
たとえば躁状態のとき、「自分には特別な才能がある」「大きなビジネスを成功させる」といった誇大な発言が出やすくなります。これは本人が本当にそう信じているからであり、後から振り返ると「なぜあんなことを言ったのか」と本人自身が理解できないことも珍しくありません。
うつ状態では逆に自己卑下が強まり、「どうせ私は何もできない」「誰も助けてくれない」という悲観的な発言が増えます。これも現実から乖離した認知であり、本人の苦しさの表れです。家族や支援者が「また大げさなことを言って」と受け流してしまうと、孤立感が深まって症状が悪化するリスクがあります。
双極性障害と虚言癖の関係を「意図的な嘘」として捉えるか、「病相による認知変容」として捉えるかで、関わり方がまったく変わります。正確な理解を持つことが、支援の第一歩となります。
躁状態で出やすい誇大発言のパターン
躁状態(または軽躁状態)になると、脳の報酬系が過活性化し、自己評価が著しく高まります。この時期に出やすい発言にはいくつかのパターンがあります。「自分は特別な使命を持っている」「今すぐ起業して成功できる」「有名人と知り合いだ」といった誇大な主張がその代表例です。
また、計画性の低下も同時に起きるため、「明日から毎日5時間働く」「来週には全部解決する」という非現実的な約束をすることもあります。本人には本当にそれが実現可能に見えているため、嘘をついているという自覚がありません。
躁状態では睡眠欲求も低下するため、「全然眠れているから大丈夫」と言いながら実際には3時間も寝ていないというケースもあります。こうした発言も「嘘」ではなく、躁状態特有の感覚の変化です。家族はこれらのサインを「症状の悪化サイン」として記録しておくと、主治医への情報提供に役立ちます。
躁状態が落ち着いてから「あのときなぜあんなことを言ったの?」と問い詰めるのも逆効果です。本人も覚えていなかったり、恥ずかしさや罪悪感から口を閉ざしてしまうことがあります。病相が安定している時期に穏やかに振り返る機会を持つのが効果的です。
うつ状態で出やすい悲観的な言動
うつ状態では、躁とは逆に自己評価が極端に低下します。「自分のせいで家族が不幸になっている」「もう治らない」「死にたい」という言動が現れることがあり、家族は「また言っている」と受け流したくなることもあるでしょう。しかしこれらの発言の多くは、うつ病相特有の認知の歪みから生じており、決して「注目を集めるための嘘」ではありません。
うつ状態では過去の出来事を否定的にしか解釈できなくなるため、「あのとき自分がしっかりしていれば」「自分は価値のない人間だ」という言葉が繰り返されます。これも客観的な事実ではなく、うつ病による思考の歪みです。
一方で「大丈夫です」「元気です」と本当の状態を隠すこともあります。これは「心配をかけたくない」という気持ちから来ることが多く、特に病識が低下している時期には正確な状態を報告することが難しくなります。主治医の診察前後に家族が状態を別途共有できる関係を作っておくと、治療の精度が上がります。
死にたいという発言は、軽視せず必ず主治医や支援機関に相談することが必要です。「また言っているだけ」と判断するのは非常に危険です。うつ状態の言動は、双極性障害と虚言癖を語るうえで最も慎重な取り扱いが求められるフェーズです。
混合状態・安定期の言動の違い
双極性障害には躁とうつだけでなく、両方の症状が同時に現れる「混合状態」があります。この状態は最も予測が難しく、「元気そうに見えるのに自傷行為をする」「興奮しながら死にたいと言う」という一見矛盾した言動が出ることがあります。家族から見ると「嘘をついている」「演じている」と映りやすい状態です。
混合状態は衝動性が高まりやすく、突発的な行動に出ることもあります。「昨日は大丈夫と言っていたのに今日は消えたい」という急激な変化に、家族が対応できなくなることも多いです。
一方、安定期(寛解期)は比較的落ち着いた状態で、病識も回復していることが多いです。この時期には「躁状態のときに言ったこと、本当にごめん」と謝罪できることもありますが、うつ状態や混合状態が長く続いた後では自己反省が追いつかず、謝罪しないままになることもあります。これは「反省していない」ということではなく、病状の回復に時間がかかっているためです。
治療で症状が落ち着くと嘘も減っていく
双極性障害の治療には気分安定薬(リチウム、バルプロ酸など)が中心的な役割を担います。これらの薬が効き始めると、躁状態の過活動や誇大感、うつ状態の認知の歪みが緩和されていきます。結果として、これまで「嘘」に見えていた言動が自然と減っていくことが多いです。
服薬継続は双極性障害の管理において最も重要なポイントの一つです。躁状態のときは「もう治った」「薬は必要ない」と感じて自己判断で服薬をやめてしまうことがあります。家族はこのリスクを理解し、服薬状況を穏やかに見守る姿勢が求められます。
治療が軌道に乗り、気分の波が小さくなってきた段階では、本人自身も「あのときの自分はおかしかった」と気づけるようになります。この内省が、今後の再発予防にも大きく寄与します。双極性障害と虚言癖の問題は、適切な治療と家族のサポートがあれば、改善していくことができるのです。
家族・パートナーのための対処法と境界線

責めずに観察する関わり方のコツ
双極性障害を持つ家族の言動を「また嘘をついた」と感情的に責め続けると、本人は孤立感を深め、症状が悪化するリスクが高まります。逆に「あなたを責めているのではなく、心配しているんだ」というメッセージを伝え続けることが、長期的な関係維持の鍵になります。
具体的には、「Iメッセージ」を使うと効果的です。「あなたはまた嘘をついた」ではなく、「私はあなたの言っていることが事実と違うとき、どう受け止めたらいいか分からなくなる」という形で伝えると、攻撃的に聞こえにくくなります。
また、言動を記録しておくことも有効です。どの病相のときにどんな言動が出たかを記録しておくと、主治医と情報共有しやすくなります。家族が「観察者」として冷静に関わることで、治療チームの一員として機能できるようになります。
支援者自身も「私が頑張ればなんとかなる」という思い込みを手放すことが大切です。双極性障害は慢性疾患であり、一人の家族が完璧にサポートできるものではありません。専門家・支援機関・家族会などを活用しながら、チームで支えていく発想が長続きの秘訣です。
周囲が疲弊しないための境界線の引き方
「境界線(バウンダリー)」とは、自分が受け入れられることと受け入れられないことを明確にする心理的な線引きのことです。双極性障害の家族を支えるとき、この境界線がないと支援者が燃え尽きてしまいます。
たとえば「深夜に何度も電話をかけてきても、翌日仕事があるときは出ない」「お金に関する無謀な計画には同意しない」といったルールを、本人が安定している時期に一緒に決めておくと実行しやすくなります。
- 安定期に本人と話し合って決める(病相中は避ける)
- 「あなたを拒絶している」ではなく「自分を守るため」と伝える
- 違反しても罰するのではなく、静かに線引きを守る
- 支援者自身が定期的に休む時間を確保する
境界線を設けることは「見捨てること」ではありません。支援者が長く関わり続けるために必要な自己保護であり、本人のためでもあります。「私も限界があるから、この部分はお互いに守っていきたい」という姿勢で伝えると受け入れてもらいやすくなります。
謝罪がないときの受け止め方
双極性障害の人が躁状態やうつ状態のときに傷つく言動をとっても、回復後に謝罪してくれないことがあります。これを「反省していない」「また同じことをする」と捉えてしまうと、関係が急速に悪化します。
謝罪がない理由は様々です。病相の記憶が曖昧であること、自己嫌悪が強すぎて謝罪が言葉にならないこと、まだ完全に回復していないこと、などが挙げられます。「謝らない=反省していない」という図式は、双極性障害には当てはまらないことが多いのです。
一方で、支援者が傷ついた気持ちを無視し続けることも長続きしません。家族会や支援者向けのカウンセリングを活用して、自分の気持ちを吐き出せる場所を持っておくことが重要です。支援者のメンタルヘルスも、同等に大切にする必要があります。
謝罪がないとき、「私はこの言動で傷ついた」ということを、穏やかに伝えることは許されます。ただし、謝罪を強要したり、過去の言動を繰り返し責め続けることは避けた方が賢明です。感情を表現しつつも、相手の病状を踏まえた対話を心がけましょう。
専門家・支援機関の活用法
双極性障害と虚言癖の問題を家族だけで抱え込むことは非常に大変です。精神科・心療内科の主治医、精神保健福祉士、家族会など、複数の支援リソースを組み合わせて活用することが長期的な支援の鍵になります。
主治医には家族からの情報提供が治療の精度を高めます。「最近こんな発言が増えた」「睡眠が短くなっている」といった観察結果を伝えることで、薬の調整や対応策の相談がスムーズになります。ただし、本人の同意なしに家族だけで診察に行くことはプライバシーの観点から慎重に行う必要があります。
家族会(全国精神障害者家族会連合会や地域の当事者家族会)では、同じ立場の人と悩みを共有できます。「自分だけが苦しいわけではない」という気づきが、支援者の孤立を防ぐ上で大きな力になります。
虚言癖についての詳しい情報は、国立精神・神経医療研究センターの公式情報も参考にしてください。
双極性障害と虚言癖についてのまとめ
双極性障害と虚言癖の関係を振り返ると、そのほとんどは「意図的な嘘」ではなく、病相によって引き起こされる認知の変容や感情の激しい波の結果であることが分かります。躁状態での誇大発言、うつ状態での悲観的な言動、混合状態での矛盾した行動——それぞれの病相で出やすいパターンを理解することが、家族にとっての最初の一歩です。
治療によって症状が落ち着けば、嘘のように見えた言動も自然と減っていきます。家族は責め続けるのではなく、観察・記録・専門家との連携という役割を担いながら、自分自身の境界線も守ることが大切です。
双極性障害を持つ人も、その家族も、それぞれが支援を受けながら共に歩んでいける関係を作ることが、長期的な回復への道です。一人で抱え込まず、専門家や家族会の力を借りながら、無理のない関わり方を見つけていきましょう。
