ミュンヒハウゼン症候群と虚言癖の違いは?症状と安全な対応を解説

「何度も病気の話をするけれど、どこまで本当なのだろう」と感じても、ミュンヒハウゼン症候群か虚言癖かを身近な人が判定することはできません。違いの中心は、病気の症状を意図的に捏造・誘発する行動があるかという点です。

ただし、話に食い違いがあっても実際の病気は否定できません。まず今の症状を医療につなぎ、見聞きした事実を医療者に共有することが大切です。子どもの健康が誰かの行動で損なわれている可能性がある場合は、本人の説明や診断の確定を待たず、安全のために相談してください。

この記事で確認できること
  • 病気の症状の捏造と、日常的に嘘を繰り返す傾向の違い
  • 検査の異常なしや受診の多さだけでは判断できない理由
  • 医療者に伝える事実と、家族だけで行わないこと
  • 子どもへの危害が心配なときの連絡先と伝え方
目次

ミュンヒハウゼン症候群と虚言癖の違い

医療者と患者がタブレットを一緒に確認する様子

症状を捏造・誘発する行動が焦点

ミュンヒハウゼン症候群は、病気であるように振る舞ったり、意図的に症状を生じさせたりする状態を指す呼び方です。現在の医療資料では「自らに負わせる作為症(虚偽性障害)」として説明され、特に重く反復する病像にこの名称が使われてきました。

身体症状だけでなく精神症状を装う場合もあります。症状の訴えを作ることと、自分の体を傷つけて本当の症状を起こすことの両方が含まれるため、「体調不良はすべて架空」という意味ではありません。具体的な手口を家庭で確かめようとせず、医療者による評価につなげる必要があります。

英国の公的医療機関NHSのミュンヒハウゼン症候群の解説でも、病気を装うことと症状を意図的に起こすことを挙げています。単に話を大げさにすることとは区別して考えましょう。

虚言癖とは同じ分類ではない

「虚言癖」は嘘を繰り返す傾向を表す一般的な言葉で、それだけで特定の病気や原因が決まるものではありません。一方、作為症は医療者が症状の捏造・誘発などを評価する診断上の概念です。両者を「軽い嘘」と「重い嘘」の段階に並べることはできません。

スクロールできます
比べる点虚言癖という呼び方ミュンヒハウゼン症候群・作為症
言葉の位置づけ嘘の反復を表す一般的な表現病気の症状の捏造・誘発を医療で評価する概念
話や行動の対象経歴や体験など幅広い病気・けが・心身の症状が中心
判断する材料食い違う事実や生活への影響を整理する診察・病歴・必要な検査を含む専門的な評価
周囲の役割呼び名で相手を決めつけない実際の症状を軽視せず、危険と事実を医療者へ伝える

作為症では、明らかな外的報酬がない状況でも病気を装う行動が認められる点が、利益を得るための詐病との区別になります。ただし、周囲から報酬が見えないだけで作為症とは判定できません。詳しい用語の比較は詐病・虚偽性障害・虚言癖の違いで整理しています。

意図的な行動と動機は分けて考える

症状を意図的に作ることと、「なぜその行動を続けるのか」を本人が理解していることは別です。「病気のふりをしている自覚がない」と一律に説明すると、意図的な行動という特徴が伝わらなくなります。逆に、行動が意図的だからといって、本人が容易にやめられるとも限りません。

関心やケアを求める心理、過去のつらい経験などが背景として検討されることはありますが、原因は十分に解明されていません。「注目されたいだけ」「子どもの頃の愛情不足が原因」と身近な人が断定することは避けましょう。相手の内心より、今どんな危険や困り事が生じているかを整理する方が相談につながります。

検査結果や話の矛盾だけで決めない

検査で異常が見つからなかったことは、その検査で原因が分からなかったという情報です。痛みや不調を装っている証明にはなりません。症状の変動、記憶や伝え方の違い、診断がまだついていない病気なども含めて、医療者が状況を確認します。

複数の病院を受診している、医療知識が詳しい、説明が変わるといった特徴だけでも診断できません。実際に病気がある人が、別の症状を誇張したり誘発したりする場合もあるため、病気か嘘かの二択にしないことが大切です。

診断には病歴や診察に加え、症状を説明する別の原因の確認や、捏造・誘発を裏づける情報が必要です。MSDマニュアルの作為症の診断・治療の解説でも、身体疾患の評価と非対決的な支援が説明されています。家族のチェック表で確定したり、SNSの投稿だけで病名を付けたりしないでください。

子どもの症状に関わる場合は安全が優先

養育者などが子どもの症状を偽って伝えたり、実際に病気を起こしたりする問題は、従来「代理ミュンヒハウゼン症候群」と呼ばれてきました。他者に負わせる作為症という診断の説明と、子どもが受ける被害の評価は分けて考える必要があります。

NHSは、子どもの症状を誇張・捏造・誘発して健康を損なう問題をFII(Fabricated or Induced Illness)として扱っています。実際に傷つける行為だけでなく、不必要な検査や治療、学校生活の妨げなども問題になります。養育者の動機や診断が確定していなくても、子どもの健康と安全を評価する必要があります。NHSによるFIIの説明が参考になります。

ミュンヒハウゼン症候群や虚言癖が心配なときの対応

受診に備えて日時や観察した出来事をノートに整理する手元

今の体調不良と緊急性を先に確認

「以前に嘘があったから今回も」と判断せず、呼びかけに反応しない、息苦しさが強い、重いけががあるなど、今の状態を先に見てください。緊急の救急要請は119です。自傷や薬の過量服用が疑われる場合も、動機の追及より医療上の判断を優先し、分かる範囲の薬の名前や状況を伝えます。

連絡するときは「ミュンヒハウゼン症候群だと思う」だけでなく、場所、本人の状態、いつから変化したかを順に伝えましょう。消防庁の119番通報の案内でも、指令員の質問に沿った説明が案内されています。

緊急ではない身体の不調は、現在の主治医やかかりつけ医に相談します。家族が「精神的な問題」と考えていても、身体症状の評価を飛ばして精神科の相談だけで済ませないようにしてください。

医療者には観察した事実を伝える

家族ができる準備は、相手を診断することではなく、医療者が判断しやすい情報を整理することです。次のように、本人が話した内容と自分が直接見たことを分けます。

  • 日時と症状:いつ、どこで、どんな不調があったか
  • 本人の説明:聞いた言葉と、誰から聞いた情報なのか
  • 直接見たこと:服薬や受診前後の様子など、実際に確認した範囲
  • 未確認のこと:薬の量や症状の原因など、分からない点
  • 相談したいこと:今の安全、受診先、家族が取れる対応

たとえば「いつも病気をでっち上げる人です」ではなく、「昨日の夜、本人は失神したと話しました。私はその場におらず確認していません。今日はこの症状があります」と伝えます。分からない部分を想像で埋めないことが大切です。

本人の同意を得られる場合は、受診先や薬の情報を一緒にまとめて共有しましょう。同意を得にくく安全が心配な場合は、医療機関に家族から情報を伝える方法を相談してください。情報を提供できても、本人の診療内容を家族が自由に聞けるとは限りません。

家族だけで追及や治療変更をしない

話の矛盾を突きつけて告白させるより、「症状が心配なので、診察で一緒に確認したい」と今の困り事から話す方法があります。これは必ず受診や改善につながる言い方ではありません。話し合いが危険になりそうなら、その場で説得を続けず外部へ相談します。

処方薬を家族の判断だけで中止する、症状が起きるか試す、検査を勝手に取りやめるといった判断はしないでください。必要な治療まで失うおそれがあるため、服薬や検査の調整は医療者と相談します。本人の求めに応じて薬を分けたり、根拠のない病歴を代わりに伝えたりすることも避けましょう。

家族は連絡できる時間や付き添える範囲を決めて構いません。ただし、急な症状や子どもの危害の疑いを「反応を薄くする」「距離を置く」だけで済ませないことが大切です。

子どもへの危害が心配なら189へ

安心できる室内で信頼できる大人と一緒に過ごす子ども

子どもが不必要な薬を与えられているかもしれない、養育者の説明と子どもの状態が大きく食い違う、受診や治療で健康が損なわれているかもしれないと感じたら、受診先の医師・看護師や児童相談所へ相談してください。「虐待かどうか分からない」段階で相談できます。

児童相談所虐待対応ダイヤルは189です。近くの児童相談所につながり、匿名でも通告・相談できます。無料ですが、一部のIP電話からはつながりません。こども家庭庁の189の案内から相談先を確認できます。差し迫った医療上の危険があれば、189への相談を待たず119へ連絡してください。

連絡では、子どもの居場所、今の体調、見聞きした出来事と日時、誰が世話をしているかを伝えます。分からないことは分からないままで構いません。家族内で証拠を集め切ったり、養育者に認めさせたりする必要はありません。

疑っている養育者を直接問い詰めたり、子どもに答えを誘導する質問を繰り返したりせず、医療者や児童相談所の指示につなげましょう。入院中なら病棟スタッフに安全上の懸念を伝えます。子どもの保護や面会、服薬管理を家族だけで決めず、関係機関と相談することが必要です。

子ども本人が読んでいて、体調について嘘を言うよう求められたり、薬やけがに不安があったりする場合は、病名を説明できなくても大丈夫です。学校の先生、養護教諭、医師など、安心して話せる大人に「今、何が起きていて何が怖いか」を伝えてください。

治療と家族の相談を別々に進める

作為症の治療は難しいことがあり、誰にでも確実に効く方法が確立しているわけではありません。身体への危険や不必要な医療を減らしながら、精神科などで本人の状態に応じた支援を検討します。「この心理療法なら治る」と家族が方法を決めたり、短期間での改善を約束したりしないでください。

本人が受診を望まなくても、家族自身が困っている状況や安全面について相談できます。相談の入口は虚言癖の悩みを相談できる受診先の選び方も参考になります。予約時に家族だけの相談を受け付けているか、相談でできることを確認しましょう。

公的な窓口としては、こころの健康相談統一ダイヤル0570-064-556が地域の相談機関につながります。受付曜日・時間は自治体によって異なるため、厚生労働省の窓口案内で確認してください。緊急の救急要請や子どもの安全確認を代わりに行う電話ではありません。

ミュンヒハウゼン症候群と虚言癖は安全から考える

両者の違いを知る目的は、身近な人の嘘を見抜いて病名を付けることではありません。症状の捏造が疑われても、現実の病気やけがを見逃さず、医療者と安全な対応を決めるためです。

迷ったときの行動
  • 急な症状やけがは、嘘かどうかの議論より受診・救急要請を優先する
  • 本人の発言と直接見た事実を分け、医療者へ伝える
  • 家庭で症状を試したり、服薬や治療を勝手に変えたりしない
  • 子どもの危害が心配なら、診断や告白を待たず医療者・189へ相談する
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