ADHDと虚言癖は同じ?相談で伝える情報と予定管理の工夫

ADHDと虚言癖の関係を考えるイメージ

ADHDと虚言癖は同じものではありません。約束を忘れたり、確認する前に答えたりする困りごとがあっても、それだけで「嘘をつく性格」やADHDと判断することはできません。診断がある人についても、個々の発言の意図まで診断名から決まるわけではありません。

この記事では、大人になってADHDが気になった人が相談に持っていく情報と、診断済みの本人が予定管理や返答を整える工夫を紹介します。「嘘を見抜く」ことより、何に困っていて、どこに支援を入れられるかを具体的にしていきましょう。

この記事のポイント
  • 嘘の内容や自覚の有無でADHDを見分けない
  • 受診では幼少期からの経過と複数場面の生活の支障を伝える
  • 予定の入力・作業の開始・返答をそれぞれ支える仕組みを選ぶ
  • 工夫が続かないときは負担と使う場面を見直して相談する
目次

ADHDと虚言癖の関係を診断から考える

相談室で二人が過去と現在の資料を一緒に確認する様子
過去の経過と現在の困りごとを相談する生成イメージ。

嘘の内容だけでは判断できない

ADHDは不注意や多動性・衝動性によって生活に支障が生じる状態です。予定を忘れる、時間や作業を整理しにくい、考える前に行動するなどの難しさがあり得ます。ただし、同じ診断名でも、どの場面でどの程度困るかは違います。

こうした難しさが約束や報告に影響する可能性と、相手をだます意図があったかどうかは、分けて考える必要があります。「忘れていたからADHD」「説明が巧みだから虚言癖」といった区分にはできません。失敗を隠したと本人が話す場合も、診断名だけでその行動を説明し切らないことが大切です。

虚言癖という日常的な呼び方だけで、ADHDかどうかや必要な治療は決まりません。「ADHDの人の嘘には自覚がない」「空想と現実が混ざるのがADHD」とも一般化しないでください。気になるのが嘘の回数だけなら、まず生活全体で困っていることがあるかを整理しましょう。

幼少期からの経過を振り返る

米国国立精神衛生研究所(NIMH)の成人のADHDについての解説では、成人期の診断でも、12歳になる前からの症状を確認すると説明しています。最近の報告の食い違い一件より、子どもの頃からどんな困難が続いてきたかが評価の材料になります。

たとえば、学校で持ち物をよくなくした、提出物を用意しても出し忘れた、話を最後まで聞くのが難しかった、家庭で毎朝の準備に大きな手助けが必要だった、といった具体例です。これは当てはまれば診断できるチェックリストではありません。困った場面と、そのとき周りが補っていたことを伝えるための例です。

通知表や連絡帳などが残っていれば、受診先に必要か尋ねてみましょう。家族から話を聞く場合も、本人が覚えている内容と家族の記憶が違うことはあり得ます。「自分では覚えていない」「家族の話ではこうだった」と情報の出どころを分ければ、無理につじつまを合わせずに済みます。

昔の資料がない、家族に聞けない場合は、その事情を予約時や診察で伝えてください。必要な資料や評価の進め方は医療機関に確認し、記憶を埋めるために出来事を作らないようにしましょう。

古い学校ノートと現在の予定帳を分けて整理する手元
幼少期の資料と現在の予定を分けて整理する生成イメージ。

複数の生活場面と支障を伝える

NIMHは、ADHDでは複数の生活場面で持続する症状や支障を確認すると説明しています。職場での一度の失敗や、特定の相手とだけ起きる食い違いから、自己判断でADHDと結論づけないでください。反対に、いま仕事ができていても、家族の手助けや強い負担で何とか保っているなら、その状況も相談の材料です。

相談前は、起きたこと、生活への影響、既に使っている支援を一緒に整理すると伝えやすくなります。次の表は記入例です。診断の採点表ではなく、自分にある困りごとだけを書き換えて使ってください。

スクロールできます
場面具体的に起きたこと影響・手助け
仕事・学業依頼を別の作業中に受け、予定へ入れないまま期限を過ぎた提出が遅れた。担当者の声かけがある日は間に合った
家庭必要な物を買いに出ても、途中で別の用事をして買い忘れた家族が買い直した。短いリストがあると確認できた
外出・約束到着時刻だけ覚えていて、出発の準備を始めるのが遅れた遅刻した。準備時刻の通知はまだ試していない
これまでの経過小学生の頃から準備に家族の付き添いが必要だった連絡帳は残っていない。覚えている範囲を本人から説明できる

頻度が分かるなら「毎日」「月に数回」など分かる範囲で添え、正確でなければその旨を書きます。「いつも全部できない」とまとめるより、できる条件や助けがあればできる条件も伝えると、必要な支援を検討しやすくなります。

ほかの心身の状態も相談する

評価では、気分や既往歴なども確認します。NIMHの説明も、似た困りごとを生む別の状態を検討し、全体として支援や治療を考えることを挙げています。「以前からの忘れやすさ」と「最近急に増えたミス」は、同じ経過としてまとめずに伝えましょう。

眠れない時期、強い不安や落ち込み、生活環境の変化、服用している薬など、気づいていることは医師に話してください。ADHDの診断が既にあっても、すべての変化をADHDのせいと決めつけず相談できます。薬を自分で増減して、返答や記憶の変化を確かめることは避けましょう。

なお、このページは大人の相談準備を中心にしています。子どもの場合は家庭と学校などでの様子も大切です。CDCの診断の案内では、一つの検査だけで決めず、保護者や教員などから複数場面の情報を集めることを説明しています。保護者だけで嘘の理由を決めず、小児科などの医療機関に相談してください。

ADHDと虚言癖の悩みを減らす生活支援

玄関でスマートフォンを確認し鞄と鍵を準備する大人
準備と出発の時刻を分けて確認する生成イメージ。

ここからは、診断済みで予定忘れや即答に困っている本人が、日常で試す工夫です。診断を受けていなくても、困っている作業を補うために使えます。これらは嘘の意図を判定する方法でも、必ず虚言をなくす治療でもありません。まずは負担の少ない一つを選んでください。

予定は受けた場で一か所に入れる

予定を覚え続けるのが難しいなら、「後で記録する」を減らします。紙の手帳かスマートフォンのカレンダーなど、本人が実際に開けるものを一つ選び、依頼を受けた時点で入れましょう。業務情報は職場で使えるツールや持ち出しルールも確認します。

「火曜に予約」だけでは、後から必要な行動を思い出せないかもしれません。「火曜10時に歯科へ行く。9時20分に家を出る。保険証など必要な物は予約案内で確認する」のように、場所・出発・準備を区別して書きます。細かくするほどよいわけではなく、自分が抜けやすい情報を足す考え方です。

入力する余裕がないときは、その場で短くメモする場所を決め、落ち着いてカレンダーへ移す時間も予定に入れます。メモ帳、付箋、チャット、手帳へ分散させたままにすると探す負担が増えるため、「いま確定している予定を見る先」を決めておきましょう。

英国NHSの成人ADHDの支援資料でも、カレンダーの通知、チェックリスト、作業の小分けなどが選択肢として紹介されています。ここで挙げる書き方は、それらを日常に取り入れるための運用例です。

開始時刻と最初の動作を決める

期限を忘れなくても、取りかかれず間に合わないことがあります。その場合は通知を増やすだけでなく、「何時に始めて、最初に何をするか」を具体化します。「報告書を終える」なら、「14時に保存先を開き、必要な数値を一つ確認する」と、入口の動作まで小さくします。

予定表には締切と別に着手の枠を取り、準備や移動も時間に含めましょう。通知を消してしまうなら、消す前に次の作業を開く、再通知を設定する、手元に道具を出すなど、気づいた後の行動を一つ決めます。通知が多すぎて見なくなる人は、重要な通知を選ぶところから試してください。

見積もりが毎回短くなるときは、実際にかかった時間を数回分だけ確認し、次の予定に反映します。移動が30分でも支度に20分かかるなら、出発直前の通知では足りません。「早めにする」という曖昧な目標を、準備を始める時刻へ置き換えると調整点が見えます。

返答は記録を開いてから行う

作業中に話しかけられると即答してしまう人は、報告の前に予定表や作業一覧を開く動作を組み込みます。パソコンの横に短い合図を置く、報告を決まった時刻にまとめる、口頭よりチャットで答えるなど、本人が使える方法を選びましょう。

たとえば、予定を聞かれたら「カレンダーを見てから返します」、作業状況を聞かれたら「一覧を開いて、終わっている分をお伝えします」と返します。確認に時間がかかるなら、「15時に返答します」と返答の予定も記録します。保留したまま忘れやすい場合は、相手に約束する前に自分の予定へ入れるところまでを一組にします。

ノートパソコンの作業一覧とスマートフォンを見比べる手元
返答前に作業一覧を開いて確かめる生成イメージ。

作業一覧は、「未着手・作業中・相手への引き渡し済み」など、自分の業務に合う少数の区分で十分です。資料の保存と提出が別なら、送信先や提出先を確かめたところで完了へ動かします。記憶をたどり続けるより、報告するときに確認できるものを用意する工夫です。

既に相手と説明が食い違っている場合の話し合いは、発達障害と虚言癖を決めつけず食い違いを確認する方法で扱っています。日々の予定管理と、起きた出来事の確認を分けて進めましょう。

続かない仕組みは一つずつ変える

記録が続かないときに「自覚が足りない」と結論づけず、どの操作で止まっているかを見ます。入力が面倒なら項目を減らす、一覧を開き忘れるなら朝の支度など既存の習慣と組み合わせる、通知に気づかないなら置き場所や音量を見直す、といった調整ができます。

工夫を一度に何個も追加すると、何が役に立ったか分かりにくくなります。「次の一週間は、依頼を受けたときだけその場で入力する」のように、短い試行の範囲を本人と決めてみましょう。この期間は治療効果が出る目安ではなく、使いやすさを振り返るための例です。

振り返りでは、できた回数だけでなく、使う手間、忘れた場面、周囲の手助けの量も見ます。家族がすべての予定を管理して疲れてしまうなら、担当する範囲を減らしたり、支援者に一緒に考えてもらったりしてかまいません。本人が使う仕組みを、周囲だけが維持する状態にしないことも大切です。

NHSの成人ADHDの案内でも、書面での指示、静かな作業環境、予定や作業の組み立てへの支援を挙げています。職場や学校では、診断名から一律の対応を求めるより、「口頭の依頼は短い文面でも残してほしい」など、自分が困る作業と希望する支援を具体的に伝えましょう。

ADHDと虚言癖で迷ったら相談へ

工夫しても遅刻や未完了が続き、仕事・学業・家庭を保つのが難しい場合は、主治医や支援者に相談してください。診断前なら、成人の発達障害の評価に対応しているかを医療機関に確かめます。予約時は「虚言癖を治したい」だけでなく、「予定忘れが続き、職場と家庭で困っている」など、評価してほしい困りごとを伝えると具体的です。

診断済みの人は、現在の治療、試した工夫、うまくいく条件も持参しましょう。治療や支援は個別に検討するもので、ADHDの治療がすべての虚偽説明を直接なくすと約束できるわけではありません。故意に事実と違う説明をしたと自分で分かっているなら、その場面や困りごとも隠さず相談できます。

受診先が分からないときは、国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害の相談窓口案内を確認してください。対象年齢、診断前の相談、予約方法は窓口ごとに確認します。過去の資料がそろうまで、一人で困りごとを抱え続ける必要はありません。

まとめ:ADHDと虚言癖を分けて支援する

ADHDかどうかは、嘘の自覚や話し方で決められません。相談では幼少期からの経過と複数場面の生活の支障を整理し、日常では予定の入力・着手・返答のうち、いま困っている一か所から支えましょう。できなかった理由を人格の問題へまとめず、使える仕組みと専門的な支援を一緒に探していくことが大切です。

目次